葛巣甫Ge Chaofu
生涯
葛巣甫は東晋末の丹陽句容の葛氏一族の一員であり、葛洪の族孫、葛玄の従孫にあたる系統に属する。その事跡は主に陶弘景『真誥・叙録』に見え、「葛巣甫、霊宝を造構し、風教大いに行わる」とあり、隆安年間(397〜401)前後に、元始天尊が説法し葛玄を伝経の仲介とする一群の経典、すなわち後世にいう「古霊宝経」を作り出したことを指す。これらの経典は元始旧経と仙公新経の二系統に出るものと仮託されており、上清派の存思、仏教の劫運と輪廻の観念、天師道の科儀を結合させ、人を度して仙となし、あまねく一切を済度するという新しい教義を打ち立てた。『元始無量度人上品妙経』はその代表である。葛巣甫の造経活動によって、葛氏一族の仙道の伝統は個人の錬養から、普遍的な済度の意味を持つ経教体系へと転じ、これが霊宝派を直接に生み出し、陸修静の三洞判教、さらには南朝道教全体に深い影響を与えた。その生没年や具体的な行跡については史料にほとんど記載がなく、学界では主に『真誥』と敦煌本『霊宝経目』によって、その造経の年代を推定している。
業績と影響
- 隆安年間に古霊宝経を造構し、霊宝派の経教体系を打ち立てた
- 劫運・普度・斎法などの観念を導入し、道教の救済論の枠組みを変えた
- 葛氏一族の仙道の伝統を普遍性を持つ経教の伝統へと転化させた
- 陸修静が三洞経書を整理する上での直接の対象を提供した
著作
- (造構)元始無量度人上品妙経
- (造構)太上洞玄霊宝諸経(古霊宝経群)
伝説
霊宝経は自ら元始天尊が太上大道君に授け、さらに葛玄を経て世に伝わったと称するが、これは経典自身が語る聖なる伝授の系譜であり、史実ではない。
参考文献
- 陶弘景《真诰·叙录》
- 敦煌本陆修静《灵宝经目》
- 小林正美《六朝道教史研究》
- Stephen Bokenkamp, Early Daoist Scriptures